メンター制度とは先輩社員が新入社員をサポートする仕組みです。業務だけでなく、個人的な悩みなど精神面でのアドバイスも行います。主に早期離職を防止することが目的です。
1.メンター制度とは
「メンター制度」とは、新卒や中途採用など新入社員の人材育成を目的とした制度です。ただ業務を指導するだけでなく精神的なサポートを行い、離職の防止を図ります。サポートをする側の先輩社員を「メンター」と呼び、サポートされる側の社員を「メンティ」と呼びます。
メンターは仕事の指示・命令を行う直属の上司や先輩社員ではなく、部署の異なる先輩職員が担当するのが一般的です。
ここでは、メンター制度の目的や他の制度との違い、必要とされる背景についてご紹介します。
1-1.離職防止や女性社員の活躍促進が目的
メンター制度の目的は、メンターが業務やそれ以外の悩みに対応しながら新入社員の定着を図り、離職を防止することにあります。
また、女性社員の活躍促進も目的に行われており、厚生労働省では女性社員の活躍を推進するためにメンター制度のマニュアルを公表しています。
結婚や出産などによる女性社員の離職を防止するため、メンター制の導入やメンターのロールモデル育成に取り組む企業を支援するマニュアルです。
参照元:厚生労働省「メンター制度導入・ロールモデル普及マニュアル」
1-2.OJTやエルダー制度との違い
メンター制度と似た制度にOJTやエルダー制度があります。OJTとは新入社員が仕事内容を覚えるために職場内で実践しながら学ぶ研修であり、同じ部署の上司や先輩社員が指導にあたります。
OJTはあくまで業務を覚えるための職場内研修であり、他部署の先輩社員が担当となりメンタルケアにも対応するメンター制度とは異なるのです。
エルダー制度のエルダーとは先輩や年長者という意味で、新入社員に対して先輩社員が指導するOJTと同じ制度です。同じ部署の先輩社員が業務についての指導を行う点で、メンター制度とは異なります。
また、メンター制度はコーチングやティーチングとも違います。コーチングとは質問を投げかけながら相手の自主的な行動を促すコミュニケーション手法ですが、メンター制度はメンターがロールモデルとなり、メンティの課題に対しアドバイスや経験をシェアすることです。
ティーチングは知識や問題の解決方法などを教えることであり、自分自身で問題解決を見つけるように導くメンター制度とは異なります。
1-3.メンター制度が必要とされる背景
メンター制度が必要とされる背景には、近年、若手社員の離職率が増えていることがあります。早期離職の原因としては、社内の人間関係がうまくいかない、職場環境になじめないという内容が多く、このような原因を解消するためにメンター制度が役立つと考えられているのです。
人間関係がうまくいかないなどの悩みが増えているのは、長期雇用制度が崩壊しつつある現代で職場環境が変化していることが一つの要因と考えられています。
会社への帰属意識が薄れ、社内コミュニケーションも活性化が難しい中、人材育成が思うように行われていないという実情があります。社員が職場に定着するにはチームワークが醸成される組織風土をつくる必要性が高まっており、その一端を担うのがメンター制度なのです。
2.メンター制度で助成金を受給できる場合
メンター制度の導入で離職率が一定基準まで下がった場合、国から助成金が出る制度があります。「人材確保等支援助成金(雇用管理制度助成コース)」といい、目標を達成すると57万円が支給される制度です。また、生産性要件を満たした場合は支給額が72万円に増額されます。
低下させる離職率の目標値は、雇用保険一般被保険者の人数規模により異なりますが、1〜9人であれば15%、10〜29人であれば10%です。例えば、雇用保険に加入している社員が12人の会社で現在の離職率が18%の場合、10%ダウンさせて8%にしなければなりません。
なお、この助成金は令和4年4月1日より整備計画の受付を休止しており、令和4年度以降は令和4年3月31日までに計画を提出した申請についてのみ手続きが可能となっています。受付再開などの情報は、公式サイトをチェックしてください。
参照元:厚生労働省「人材確保等支援助成金(雇用管理制度助成コース)」
3.メンター制度のメリット
メンター制度はメンター、メンティそれぞれにメリットがあります。指導する側のメンターは仕事に対する責任感が高まり、管理職になったときにメンターの経験を活かせるのがメリットです。メンティにとっても、職場に早くなじめ、悩みを一人で抱えなくなるなどのメリットがあります。
ここでは、メンターとメンティのメリットについてご紹介しましょう。
3-1.メンターのメリット
メンター制度はメンターの成長に役立ちます。自分を振り返り、学び直しをするきっかけにもなるでしょう。
メンターになった先輩社員はメンティのよいお手本になろうという意識が高まり、仕事に対し積極的に取り組むようになります。仕事への責任感も強くなり、管理職になったときはメンティへの指導経験を活かすことができるのが特徴です。
3-2.メンティのメリット
新入社員は慣れない職場で不安や悩みを抱えがちですが、メンターがいることで悩みを一人で抱え込まなくなります。業務を覚え、職場に早くなじんで早期離職を防止できるのがメリットです。
信頼関係を築いたメンターとはメンター制度の終了後も関係が続き、いつでも相談できる相手がいるという安心感も生まれるでしょう。仕事を続けるモチベーションになります。
4.メンター制度のデメリット
メンター制度にはデメリットな側面もあり、メリットとあわせて把握しておくことが必要です。まず、メンターは自分の仕事を抱えており、メンターになることで仕事が増えることになります。
また、メンティとメンターの相性が合わない場合もあり、信頼関係を築くのが難しいケースもあるでしょう。
メンター制度のデメリットについてご紹介します。
4-1.メンターのデメリット
メンターは自分の仕事のほかにメンターとしての業務が増え、負担が大きくなります。繁忙期などはサポートをつけるなどの体制を整えることが必要です。
メンター制度を設けてメンターを選ぶ際はメンターのケアをどうするかよく考え、メンターとなる社員と人事担当者が仕事配分などについて話し合わなければなりません。メンターとして行うことを具体化し、本来の業務にどのようなサポートを入れるべきかをよく確認しておきましょう。
4-2.メンティのデメリット
メンターとメンティは必ず相性が合うとは限りません。メンターにも教え方や接し方には個人差があり、あまり上手ではない可能性もあります。相性が合わなかったり教え方がうまくなかったりすると、かえって制度がマイナスに働く可能性があるでしょう。
メンターの研修で意識や教え方の統一を図り、信頼関係を構築できるよう慎重なマッチングを行わなければなりません。
5.メンター制度導入のやり方
メンター制度の導入は導入目的の明確化から始まり、手順を踏んで行います。メンター制度をスムーズに進めるための体制をつくり、ルールや実施期間、メンターとなる社員の選定方法などを具体的に定めましょう。
メンターとメンティのマッチングや双方の事前研修も大切です。
ここでは、メンター制度導入のやり方を順にご紹介します。
5-1.導入目的を明らかにする
まず、メンター制度を導入する目的を明確にしましょう。具体的な実施計画を立てるには、どのような目的で制度を導入するか明確にすることが必要です。導入の目的は、主に若手社員の離職防止や女性の活躍推進があげられます。
中途社員も含む新入社員の早期離職防止をするため、気軽に相談できる相手としてメンターを設ける会社が多いでしょう。また、妊娠や出産、子育てなどのライフイベントがある中でも女性が就業を継続できるようにするため、メンター制度を導入する会社もあります。
5-2.体制を構築する
メンター制度をスムーズに進めるためには、しっかりした体制づくりが欠かせません。経営層や現場の管理職などに協力してもらえるよう、すべての合意を得ることが必要です。制度を開始する際には経営トップや経営層から制度の意義や目的についてメッセージをもらい全社に周知することで、効果的な運用ができます。
また、制度を開始したあともメンターとメンティに任せきりにするのではなく、適宜人事担当などがサポートしていくことが求められます。
5-3.ルールや実施計画を策定する
メンターが迷いなく任務を行えるよう、運用のルールや実施計画を策定します。ルールの設定では、メンタリングで知った情報の守秘義務や相談窓口の設置、メンタリングの実施時刻などを明確にすることが大切です。
実施計画では制度の効果を測定できるよう、「早期離職率を何パーセント削減する」など具体的な目標を設定しておくのもおすすめです。
5-4.マッチングする
ルールや実施計画が決まったら、メンターとメンティのマッチングをします。マッチングはメンター制度の成功を左右する重要なポイントです。制度の目的に合い、メンターとしての適性がある人材を選ばなければなりません。
なお、メンターは傾聴力があり、相手を受容できる人材が向いています。メンターとメンティそれぞれの性格を考え、慎重にマッチングしましょう。
5-5.事前研修を行う
マッチングが終わったら、メンター・メンティそれぞれに制度の意義やルール、実施する上での心構えについて事前研修を行います。さらにメンターには、メンティの成長を促進するスキルや、相手を受け止める傾聴力についての研修が有効です。
一度で終わるのではなく、制度の実施後も進捗状況の確認も含めて研修の場を設けるとよいでしょう。
5-6.円滑な運用に向けてサポートを行う
実施中は制度を円滑に運用するためのフォローを適宜行いましょう。導入してから数ヵ月後に、メンターの情報交換会を開催するのも効果的です。状況を聞き取り、フォローや改善が必要であれば対応してください。
人事担当はメンターとメンティをサポートしながら現場の問題点も確認し、今後の制度運用の改善に活かしていくとよいでしょう。
6.メンター制度の成功事例
メンター制度を成功させた事例は多く、これから制度を運用するうえで参考にすることができます。新入社員の育成だけでなく採用活動に活かして成功した事例や制度を通して職場のコミュニケーションを活性化できた事例など、メンター制度はさまざまな場面で活かされているためです。
ここではメンター制度の成功事例について、2つご紹介しましょう。
6-1.採用活動に活かした事例
大手会計事務所では新人研修のほかに、仕事面だけではなくプライベートな相談も受けるメンター制度を採用しています。
同事務所では、メンタリング・スキルをリクルーターによる採用活動にも活かしているのが特徴です。優秀な人材の採用が重要となる現代、同事務所でも新入社員の確保が課題となっています。
そのため、メンティと信頼関係をつくるメンタリング・スキルが求職者との信頼づくりや採用活動にも活かされ、大きな成果を上げているということです。
6-2.職場の活性化を目的とした事例
人材開発コンサルティングを行う企業ではメンター制度を職場の活性化に活かしています。同社は業務の性質上、社員同士の情報交換や社内コミュニケーションが少ないことから、メンター制度の導入を通して職場全体のコミュニケーション活性化につなげることを考えました。
職場の活性化はお互いに関心を持ち合うことが大切と考え、普段あまりコミュニケーションをとらない社員同士をメンタリングのペアにして、制度を運用させたのです。その結果、職場の雰囲気が明るくなり、社内プロジェクトに積極的に参加する社員が増えるという成果を上げています。
7.メンター制度で社員の定着率を高めよう
メンター制度は、部署の異なる先輩社員が新入社員をサポートする取り組みです。新入社員が職場に早くなじみ、早期離職を防止する効果が期待できるでしょう。制度はメンターにもメリットがあり、仕事に責任感ができたり、管理職になったときに経験が活かせたりします。
導入する際は目的の明確化や体制の整備など、手順を踏んで行わなければなりません。社員の定着率を高めたいと考えている担当者は、ぜひ検討してみてはいかがでしょうか。