採用通知書は、採用を決定したという意思を伝える重要な書面です。内定通知書と混同しやすいですが、送るタイミングや法的効力の有無などが異なると解釈されることもあります。今回は採用通知書の記載方法や注意点などを詳しく解説します。
1.採用通知書とは?
採用通知書とは、応募者に対して採用する意思を伝える書類のことです。
採用の意思を通知する手段としては他にメールや電話がありますが、例えばメールは他のメールに埋もれてしまったり、誤って破棄してしまったりするリスクがあります。電話も、言い間違いや聞き間違いが起きる場合があり、話した内容を記録できないことから後でトラブルの原因となることが考えられます。
採用通知を送付することで、採用をメールや電話で伝える場合に起こり得るリスクを回避でき、採用の意思を確実に伝える効果が見込めるでしょう。さらに、応募者が採用されたことをはっきりと実感するためのツールとしても意味があるといえます。
2.採用通知書の送付対象
採用通知書の送付は、企業に義務づけられているわけではありません。採用通知書の形式は決められておらず、送付対象者についても企業が自由に決められます。そのため、雇用形態に関わらず全員に送付する企業もあれば、契約社員には採用通知書を作らない企業も存在するのです。
しかし、採用通知書を送付することで、採用を決定した旨を確かに伝えられ、応募者と認識の齟齬が発生するリスクを防げます。早めに採用通知書を送ることで、内定辞退の防止にもつながります。そのため、基本的には採用する社員全員に対して採用通知書を作成し、送付するのが望ましいです。
3.不採用の場合も通知書は必要?
不採用通知書は、採用に至らなかった応募者に対して結果を通知する書類です。採用通知書と同様に、不採用通知書についても企業に送付義務はありません。なかには、「採用通知の連絡がなければ不採用とする」というスタイルで採用を行っている企業も存在します。
しかし、不採用通知書を送ることで、応募者に結果を確実に通知できます。また、不採用という結果だけでなく、選考を受けてもらったことへの感謝を伝えられることもメリットです。企業イメージの向上にもつながるため、できる限り不採用通知書も作成して送付しましょう。
その際は、不採用という事項を簡潔に伝え、感謝を丁寧に伝えられるよう、文面を工夫することが大切です。
4.採用通知書と内定通知書の違い
採用通知書と内定通知書を、はっきりと区別することは困難な場合があります。一般的に内定は、社内で採用が決定したことを意味する言葉です。そのため、内定のタイミングで採用通知書や採用内定通知書を発行するケースも少なくありません。
しかし、企業によっては、採用試験の合格を少しでも早く知らせるという目的で採用通知書を送り、応募者の入社の意思が確認できたタイミングで、改めて内定通知書を送付するケースもみられます。また、両者には法的効力の有無に違いがあるという考え方もあります。
ここからは、採用通知書と内定通知書の違いを解説していきます。
4-1.企業が送付の義務を負うのか
採用通知書も内定通知書も、企業が送付の義務を負うものではありません。いずれも、書面を用いることなく、メールや電話で行っても問題はないとされています。ただし前述のとおり、言い間違いや聞き間違いが起きる可能性があること、また記録に残らないことなどによるリスクを考慮する必要があります。
4-2.どの段階で応募者に通知するのか
採用通知書と内定通知書は、それぞれ発行する段階が異なることが一般的です。採用通知書は採用面接の結果、企業が採用することを決定した際に通知する書面です。つまり応募者がその会社に入社する意思があるか否かに関わらず、企業が採用の意思を伝える役割を果たします。
それに対して内定通知書は、内定の決定を通知する書面を指します。内定とは、応募者が入社する意思を示した状態のことです。すなわち企業は、採用通知書を送付することで採用の決定を知らせ、応募者の入社の意思が確認できたタイミングで内定通知書を出すことが多いといえます。
4-3.法的効力の有無
発行されるタイミングを考慮すると、採用通知書は応募者の入社の意思確認をする前の段階の通知であるため法的な拘束力はないと解釈できます。一方で、内定通知書には労働契約を取り交わす効果があるため、法的な拘束力が発生すると考えられます。つまり、一般的に内定の取り消しがやむを得ないとされる状況を除き、企業は応募者に対して内定を取り消せないということです。
ただし、採用通知書に法的効力がないと言い切れるかどうかは、慎重に判断する必要があるでしょう。応募者が企業に応募することが労働契約の申込みに当たり、企業が採用の決定を通知することが契約の承諾と見なされるケースもあるためです。
書面の名称に関わらず、内容次第では内定、つまり労働契約が成立したとされる可能性があることに注意してください。
採用通知書が、法的効力のある内定を通知するものではないということを明確にするためには、今後入社にむけた意思確認をしていきたい旨を記載することがポイントです。
5.採用通知書と労働条件通知書の違い
採用通知書と混同しやすいのが、労働条件通知書です。
前述のとおり、採用通知書は採用に至った結果を通知し、入社意思を確かめるための書類です。交付の義務はなく、書式や内容は企業が自由に決められます。
一方、労働条件通知書とは、会社から労働者に対して労働条件を通知する書類です。労働基準法では、労働契約を締結する際に一定の労働条件を明示することが定められており、労働基準法第15条、労働基準法施行規則第5条の規定で、労働条件通知書の交付が義務づけられています。
労働条件通知書を交付することで、労働者は労働条件を書面で確認でき、企業と労働者間でのトラブル防止に役立ちます。
このように、両者は目的と交付義務に違いがある点を理解しておきましょう。
参照元:e-Gov法令検索「労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)」
6.採用通知書の記載方法
採用通知書は、記載方法が決められているわけではありません。しかし、採用通知書の内容に不備があるとトラブルの原因になりかねないため、一般的に必要な項目を確認しておく必要があります。さらにテンプレートを活用すると、重要事項の記載漏れを防ぐ効果が期待できます。
6-1.採用通知書に記載する事項
一般的に、採用通知書に記載する主な事項は下記のとおりです。
- 採用決定のお知らせ
- 同封する書類の内容
- 入社日
- 労働条件
求人への応募のお礼とともに、採用を決定したという内容を記載します。「厳正なる選考の結果」や「慎重に選考させていただいた結果」といった言葉を添えることが多いです。また、応募者の入社の意思の確認が取れていない場合、入社承諾書や返信用封筒などを同封することが一般的です。
入社日や労働条件も重要な項目であるため、漏れなく記載してください。特に労働条件は、求人票に掲載している内容や面接で応募者と話した条件と異なることのないよう、慎重に書く必要があります。なお、労働条件通知書として同封するほか、別途通知することも可能です。
上記以外に、採用通知書には次のような内容も記載します。
- 日付
- 応募者の氏名
- 社名、代表取締役の氏名
- 人事担当者の連絡先
- 書類の返送期限
日付は右上に、段落をあけて左側に応募者の氏名を記入します。応募者の敬称には「殿」「様」を使いましょう。応募者の氏名の右下に正式な会社名と、代表取締役の氏名を書き、代表取締役の氏名を記入する欄に社判を押印します。
応募者とやり取りを行う人事担当者の連絡先、返送が必要な書類の具体的な返送期限も書く必要があります。採用通知書が応募者に届くタイミングを考慮し、余裕のある返送期限とするのがおすすめです。
6-2.採用通知書のテンプレート
テンプレートを利用すると、必要事項の記載漏れを防ぐ効果が見込めます。一例をご紹介しますので、使いやすいようにカスタマイズして活用してください。
令和◯年◯月◯日
◯◯◯◯様
株式会社◯◯◯
人事部◯◯◯◯
採用通知書
拝啓
このたびは弊社求人にご応募いただきまして誠にありがとうございました。
また先日は最終面接にご足労いただいたこと、重ねてお礼申し上げます。
厳正なる選考の結果、貴殿の採用を決定しましたので、ご連絡申し上げます。
入社日は令和◯年◯月◯日の予定です。
つきましては、同封の入社承諾書に必要事項をご記入、ご押印の上、
期限までにご返送くださいますようお願い申し上げます
敬具
記
同封書類
・添え状 1通
・労働契約書 1通
・入社承諾書 1通
・返送用封筒 1枚
提出期限 令和◯年◯月◯日(◯)必着
ご不明な点がありましたら、下記までご連絡ください。
本件に関する問い合わせ先
人事部採用課:◯◯◯◯
TEL:00-0000-0000
メールアドレス:◯◯◯◯@◯◯◯◯.co.jp
以上
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7.採用通知書に同封する書類3種
採用通知書に同封する書類には、主に「入社承諾書」や「労働契約書」などがあります。入社承諾書に必要事項を記入してもらい、送り返してもらうために返信用封筒も入れておくと応募者の手間を省くことが可能です。ここでは、採用通知書に同封する書類に関して解説していきます。
7-1.入社承諾書
入社承諾書は、採用を決定した者に入社の承諾の意思表示をしてもらうための書類です。「入社誓約書」や「内定承諾書」などと呼ばれることもあります。
発行が義務づけられているわけではなく、法的効力もありませんが、企業と応募者の間のトラブル回避のために、送付するのが望ましいといえます。
入社承諾書には、内定者の署名や捺印をもらうことがほとんどです。必要に応じて内定取消に該当する事項や、機密保持や守秘義務に関する項目なども記載するとよいでしょう。
7-2.労働契約書
労働契約書は労務の提供や報酬の支払いに関して、企業と労働者の間で交わされる契約書です。発行することが義務づけられているわけではなく、書面ではなく口頭での合意であっても契約は成立します。しかし、労使間のトラブルを避けるためには作成することが望ましいといえます。
労働契約書に似た書類に、「労働条件通知書」があります。労働条件通知書は、労働基準法によって作成が義務づけられています。労働基準法は使用者に対して立場が弱いとされる労働者を守るための法律であり、労働者が不利な条件で働かされることを防ぐため、賃金や労働時間などの労働条件を明示する必要があるのです。
企業の手間を省く目的もあり、労働条件通知書に記載が義務づけられている内容を、労働契約書に記載するケースも多く見られます。
労働条件通知書に記載する必要がある事項には、必ず明示しなければならない「絶対的明示事項」と、その会社で定めがある場合に明示しなければならない「相対的明示事項」があります。
絶対的明示事項は、下記のとおりです。
- 労働契約の期間(期間の定めの有無)
- 就業する場所、業務内容
- 始業と終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休暇など
- 賃金の決定、計算や支払の方法など
- 解雇の事由を含む退職に関する事項
- 昇給に関する事項
一方、相対的事項は以下の内容になります。
- 退職手当が適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算や支払の方法など
- 退職手当を除く臨時に支払われる賃金、賞与など
- 労働者に負担させるべき食費や作業用品などに関する事項
- 安全及び衛生に関わる事項
- 職業訓練に関わる事項
- 災害補償や業務外の疾病の扶助に関する事項
- 表彰及び制裁に関する事項
- 休職に関する事項
なお、絶対的明示事項のうち昇給に関する事項と、相対的事項については、書面ではなく口頭の明示でもよいとされています。確実に伝えたい場合は、書面に記載しましょう。
参照元:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督「労働基準法の基礎知識」
参照元:厚生労働省「採用時に労働条件を明示しなければならないと聞きました。具体的には何を明示すればよいのでしょうか。」
7-3.返信用封筒
採用通知書には、返信用封筒を同封することをおすすめします。必ずしも同封する必要はありませんが、住所や宛名が記載された封筒が入っていると、応募者への心証がよくなるでしょう。また、スムーズな返信も期待できるほか、誤った住所や部署に送付されるといったミスの防止につながります。
8.採用通知書には添え状も添付する
添え状とは、書類を送付する際に同封するものです。「誰がどのような書類をどのくらい送ったか」のように、中身を知らせる役割を担います。
採用通知書を送付する際は、添え状も忘れずに同封しましょう。添え状は、採用通知書に限らず、契約書や請求書などの重要な書類を送付する際に必要です。添え状の添付はビジネスマナーであり、採用通知書の本文のみを送付するのは失礼にあたるため、注意しましょう。
添え状に記載する項目は、以下のとおりです。
- 送付年月日
- 送付先(宛先)
- 差出人の会社名と担当者名
- 頭語と結語
- 挨拶文
- 送付内容
9.採用通知書を送付する際の注意点3つ
採用通知書を送付する際の注意点は、次の3つです。
- 書留で送付する
- 宛先を間違わない
- できるだけ早く送付する
採用通知書の送付方法やタイミングに気をつけないと、確実に届けられなかったり、応募者の入社意欲に影響したりする可能性があります。一つずつご紹介していきます。
9-1.書留で送付する
採用通知書は、基本的に書留での送付がおすすめです。書留で送ることで、確実に配送されたかどうかの追跡が可能です。
また電話やメールで、採用通知書が届いたかどうかを確認することをおすすめします。書類の送付だけでなく、電話やメールで直接コンタクトを取ることで、より丁寧な印象になります。
9-2.宛先を間違わない
採用通知書の宛先を、間違わないようにすることも重要です。誤って異なる宛先に採用通知書を送付した場合、個人情報の漏洩につながる可能性があります。採用を通知する応募者の氏名と、送り先の氏名をしっかりと確認し、正しく入力するように注意することが重要です。
9-3.できるだけ早く送付する
採用通知書は、できるだけ早く送付するようにします。応募者は複数の企業の選考を受けていることがほとんどであり、後から面接した企業の採用通知書が先に届いてしまうと、印象が悪くなり、入社の意欲の低下を招くリスクがあります。
そのため、遅くとも採用決定後、一週間以内に送付するのが理想です。採用通知書を迅速に送付するだけでなく、電話やメールを併用して、採用の決定をできる限り早く伝えるようにすると効果的です。
10.採用通知書はメールでの送付でも問題ない?
採用通知書は、書面で作成して郵送する方法のほかに、メールでの送付も可能です。メールで送付することで、採用結果をすぐに通知できます。書面での交付に比べて手軽であるため、多くの企業に取り入れられている方法です。
しかし、ほかのメールに埋もれてしまうリスクがあります。確実にメールを確認してもらえるよう、注意が必要です。
ここでは、採用通知書をメールで送付する際の注意点と、メールのテンプレートをご紹介します。
10-1.メールで送付する際の注意点
採用通知書をメールで送付する際の注意点は、以下のとおりです。
- 結果をメールで通知する旨を事前に伝える
- 件名をわかりやすく設定する
- 誤送信に注意する
- 後日、改めて内定通知書を書面で交付する
採用通知書をメールで送付する際は、ほかのメールに埋もれて見逃されてしまうリスクがあります。そのため、選考時に採用通知をメールで送信する旨を伝えることが必要です。また、件名を「【株式会社〇〇】採用に関するご連絡」のようにわかりやすく設定し、開封してもらえるようにしましょう。
メールを送付する際は、当然ですが誤送信に注意が必要です。特に、本来不採用の相手に採用通知を送ってしまうと、重大なトラブルにつながります。相手の氏名にミスがないか、メールアドレスは間違えていないかなどを入念に確認してください。
さらに、メールで採用結果を伝えた後、改めて内定通知書を書面で交付することが大切です。
メールを開封してもらえないリスクが怖い場合は、メールではなく書面で交付しましょう。
10-2.メールで送付する場合のテンプレート
メールで採用の旨を通知する際は、以下の項目を含めるようにしましょう。
- 件名
- 宛先
- 送付者の肩書き・氏名
- 挨拶
- 選考に参加してもらったことへの感謝
- 選考結果
- 今後の流れ
- 問い合わせ窓口
- お礼・挨拶
- 署名
テンプレートは、以下のとおりです。必要に応じて文面を変更しながら、メールの作成にご活用ください。
件名:【株式会社〇〇】採用に関するご連絡
〇〇様
平素より大変お世話になっております。 株式会社〇〇人事部新卒採用担当の〇〇と申します。
先日は、お忙しい中弊社の最終選考にお越しいただきまして、誠にありがとうございました。
厳正な選考の結果、〇〇様にはぜひ弊社の一員としてご活躍いただきたいと思い、採用の内定を決定いたしました。メールにて恐縮ですが、取り急ぎご報告申し上げます。
条件やご入社にあたって必要な書類などにつきましては、追ってご連絡いたしますので、今しばらくお待ちください。
ご不明な点などございましたら、私〇〇までお気軽にお問い合わせください。 〇〇様のご入社を、心よりお待ちしております。 弊社の選考に参加していただいたこと、改めて御礼申し上げます。
今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。
(署名)
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11.採用通知書で採用の旨を確実に伝えよう
採用通知書は、応募者に対して採用を決定したという意思を伝えるための書面です。似ている書類に内定通知書があり、企業によっては内定のタイミングで採用通知書を発行するケースもみられます。ただし、発行する段階や法的効力の有無に違いがあると解釈される傾向にあります。
採用通知書が応募者の手に確実に渡るように、書留で送ることがポイントです。また、採用を決定してからできるだけ早く送付することが求められます。採用通知書の特徴や注意点を踏まえ、採用の意思を確実に伝えられるようにしましょう。