アルムナイ採用とは、何らかの理由で退職した社員を再雇用する、近年注目を集めている制度のことです。自社の理念や社風を理解している人材が戻ってくる点が、特徴といえます。今回はアルムナイの概要やメリットとデメリット、活用方法を詳しくご紹介します。
1.アルムナイ採用とは
「アルムナイ採用」とは、何らかの理由で自社を退社した人を再雇用する採用方法のことです。「カムバック制度」や「出戻り制度」と呼ばれることもあります。
「アルムナイ」は日本語に訳すと卒業生という意味で、人事領域では会社の卒業生、つまり企業の退職者を指します。企業の退職者を積極的に再雇用するアルムナイ採用は、特に外資系企業で盛んに実施されてきました。近年では、日本でも注目を集めています。
1-1.退職者を再雇用する採用方法
アルムナイ採用の最大の特徴は、退職者を再雇用する採用方法であるため、自社の理念や社風を理解している人材が戻ってくる点です。
そのため採用のミスマッチが起こる可能性が低く、再雇用した人材は即戦力としての活躍が期待できます。アルムナイ採用のきっかけは、退職者本人からの直接の応募であったり、在職中の社員からの推薦であったりとさまざまです。
1-2.アルムナイが注目される背景
アルムナイが注目される背景として挙げられるのは、主に次の2つです。
少子高齢化の進展により労働力人口が減少し、その結果、人手不足の状況は年々深刻になっています。このような状況下において、自社の理念や文化を十分理解している人材はすぐに即戦力化することが期待できます。
人材の流動化が進行していることも、アルムナイが注目される背景の一つです。転職に対するマイナスイメージは薄れてきており、複数の企業を渡り歩きキャリアを積み重ねていく人も少なくありません。つまり優秀な人材を自社のみで囲い続けることも、新規で一定数採用することも、どちらも難化しているため、アルムナイは企業からの注目を集めているのです。
2.アルムナイ採用を導入するメリット
アルムナイ採用の実施で得ることができるメリットは、主に次の6点です。
- 人材の採用・育成にかかるコストの削減
- 優な人材の確保
- 企業ブランディングの向上
- 離職率の改善
- 有力な情報源としての役割
- アンバサダーやパートナー、顧客として関係性の継続
それぞれの内容についてお伝えしていきます。
2-1.人材の採用・育成にかかるコストの削減
アルムナイ採用を始めると、人材の採用や育成にかかるコストの削減が見込めます。退職者からの応募や在職中の社員からの推薦などによって人材を確保できるため、求人媒体での募集をかける必要性が低くなる可能性が高いです。
またアルムナイ作用で採用する人材は、自社の働き方や企業風土を理解していることがほとんどであるため、人材育成のコストも削減できる傾向にあります。
2-2.優秀な人材の確保
優秀な人材の確保につながる点も、アルムナイ採用のメリットです。アルムナイは、他の企業で経験を積んだり、新たな知識や技術を習得していたりする可能性があります。
また企業はアルムナイのスキルを、アルムナイ自身も自社の仕事内容や雰囲気を把握しているため、通常の採用よりも採用のミスマッチが生じにくい点も特徴です。そのため即戦力として高いパフォーマンスを発揮することが期待できます。
2-3.企業ブランディングの向上
企業ブランディングの向上が見込めることも、アルムナイ採用のメリットの一つです。アルムナイ採用によって、在職中の社員に対して「退職してもまた戻りたいと思える会社」と印象づける効果が見込めます。
加えてアルムナイが組織から離れて得た知見や新しい考え方を持ち帰り、組織が活性化することで、さらに魅力的な企業へと成長する可能性があります。
2-4.離職率の改善
アルムナイ採用によって、従来の退職者面談やエグジットサーベイなどでは把握できなかった、退職者の本音に触れる機会が生まれると考えられます。
企業が退職者の本音を把握することで、労働環境や職場環境の見直しを効率的に行うことが可能になり、それらの取り組みは離職率の改善に効果的です。
2-5.有力な情報源としての役割
アルムナイは、企業にとって有力な情報源としての役割を果たすこともあります。アルムナイはさまざまな業界で活躍しており、それぞれの多様な情報を持っているため、新しい情報やアイディアの獲得にもつながります。
2-6.アンバサダーやパートナー、顧客として関係性の継続
アルムナイから、自社の社員でも顧客でもないアンバサダーとしての視点に基づき、商品やサービスに関するアドバイスをもらうことも有益です。退職後も自社に愛着を感じてくれるアルムナイは、自社の製品を周囲に情報拡散してくれると考えられます。
雇用者と労働者の関係性ではない、新たな関係性を構築できる可能性がある点も魅力です。
3.アルムナイ採用を導入するデメリット
アルムナイ採用には数多くのメリットがあるものの、以下のようなデメリットが存在することに注意が必要です。
- 現役社員のモチベーション低下
- 「退職者」に対するネガティブなイメージ
- 情報漏洩のリスク
あらかじめデメリットをおさえておくため、一つずつ解説していきます。
3-1.現役社員のモチベーション低下
アルムナイ採用の制度の存在によって、現役社員が「辞めてもいつでも会社に戻ることができる」と考えてしまい、モチベーションの低下を引き起こす可能性があります。
またアルムナイの待遇によっては現役社員から反感を買うリスクがあるため、再雇用の待遇の設計や復職までのフローの明確化し、現役社員への説明を十分に行うことが重要です。
3-2.「退職者」に対するネガティブなイメージ
人によっては「退職をしたこと」に対するネガティブなイメージを根強く持っていることも、アルムナイ採用のデメリットです。
アルムナイ採用を導入する際には、アルムナイという新たな概念を浸透させるための社内教育を行うなどして、理解を深める必要があります。
3-3.情報漏洩のリスク
アルムナイ採用においては、情報漏洩のリスクがあることに考慮することがポイントです。アルムナイは元社員とはいえ、再雇用をしていなければあくまでも外部の人間であることを念頭におき、情報の開示や管理方法に関するリスク管理を講じることが不可欠です。
4.アルムナイ採用の上手な活用方法
アルムナイ採用を有効なものにするために、上手な活用法を押さえておく必要があります。アルムナイ採用を活用するポイントは以下の3つです。
- 雇用形態に多様性をもたせる
- 退職者を受け入れる体制を整える
- イグジットマネジメントを強化する
それぞれ順番に解説していきます。
4-1.雇用形態に多様性をもたせる
アルムナイ採用を導入する際には、雇用形態に多様性をもたせるように工夫することをおすすめします。現状はフルタイムで働くのが難しい状況であったり、いずれ起業することを視野に入れていたりと、退職者が置かれている状況はさまざまです。
そのため、たとえば起業を検討している退職者に対しては再雇用ではなく、副業やフリーランスといった形態の提示が、人材の確保につながる可能性があります。このように、人事制度に大きな影響を与えない程度に雇用体系のバリエーションを増やすことで、企業とアルムナイの双方にとって満足度の高い人材採用が叶います。
4-2.退職者を受け入れる体制を整える
アルムナイ採用をスタートするうえでは、退職者を受け入れる体制を整えておくことも重要です。退職者にアルムナイ制度の存在が知られていなければ仕組みが機能しないほか、退職後のコミュニケーション手段を確保していないと連絡が取れません。
そのため、退職者とのコミュニケーションを図るプラットフォームの整備を行い、退職時に登録を促すフローを明確にします。また退職者が辞めた企業に再度応募することを恥じている可能性があるため、退職者向けのイベントを開催するなど、企業から積極的にアプローチを図ることが求められます。
4-3.イグジットマネジメントを強化する
アルムナイ採用を効果的に活用するには、イグジットマネジメントを強化することが不可欠です。イグジットマネジメントとは組織の出口管理のことで、円満退職を実現するための手法です。
アルムナイ採用で再雇用し、再び自社で活躍してもらうためにはそもそも円満退職をしていなければ不可能だといえます。そのためイグジットマネジメントとして退職後のステップアップ支援を行い、退職者の不安を軽減する取り組みを実施することが有効です。
5.アルムナイ採用に取り組んでいる企業事例
アルムナイ採用は、近年では日本でも導入する企業が増えています。ここからご紹介するのは、アルムナイ採用に取り組む、以下の2社の企業事例です。
5-1.サイボウズ株式会社
サイボウズ株式会社には、希望すれば離職時から最長6年間はサイボウズへの復帰が可能となる「育自分休暇制度」があります。「またサイボウズに戻ることができる」という安心感のもと、やりたいことにチャレンジしてもらうことが目的です。
社員が安心して新しいことにチャレンジできるようにバックアップする、ユニークな制度といえるでしょう。
5-2.アクセンチュア株式会社
アクセンチュア株式会社は辞めた社員とのつながりを重視しており、78ヵ国でアルムナイ活動プログラムを実施しています。
また世界中の30万人以上のアルムナイが登録するポータルサイトを有し、アルムナイ同士や現役社員との交流を推進しています。
6.アルムナイ採用を活用して優秀な人材を確保しよう
アルムナイ採用とは、何らかの理由で退職した社員を再雇用する、カムバック制度や出戻り制度とも呼ばれる制度のことです。最大の特徴は、自社の理念や社風を理解している人材が戻ってくる点にあります。そのため採用のミスマッチが起こりにくく、再雇用した人材は即戦力として活躍しやすいといえます。
一方で、現役社員が「辞めてもいつでも戻ってくることができる」と考えることでモチベーションが低下したり、情報漏洩のリスクがあったりすることに注意が必要です。アルムナイ採用を上手に活用して、自社に合った優秀な人材を確保しましょう。