新卒採用戦略が必要とされる背景としては、主に以下の3点が挙げられます。
それぞれの内容を解説していきます。
労働力人口は、今後も減少する見込みです。生産年齢人口とも呼ばれる15~64歳の人口は、1995年の国勢調査 8,726 万人を記録し、ピークに達しました。しかし、その後は減少を続け、2020年の国勢調査では7,509万人となっており、今後も減少する見込みです。
生産年齢人口の減少に伴い、15歳以上で実際に働いている人と、働く意思のある人をあらわす労働力人口も、減少することが予測されます。
労働力人口が減少し続けると採用活動が難化することが想定されるため、新卒採用戦略を立て、計画的に採用を進めていく必要があります。
新規大卒就業者のうち3年以内に離職した割合は約3割程度で推移しており、厚生労働省が2022年に公表した、2019年3月卒業の新規大卒就業者では31.5%でした。つまり、新卒で入社した人のうち、3人に1人が3年以内に離職していることがわかります。
良い人材の定着、離職率の抑止のためにも、採用戦略の重要性がさらに高まってきているといえます。
新卒採用の早期化と長期化が続いていることも、新卒採用戦略が必要とされる理由の一つです。新卒採用選考の開始を6月とする、いわゆる「就活ルール」よりも早くから採用活動を始める企業は増加傾向にあります。
内閣府が2022年に公表した「学生の就職・採用活動開始時期等に関する調査 調査結果 報告書」によると、約9割の学生が、4月前に採用面接を受けたことがあると回答しています。
また、同調査では、就職活動の期間が9ヵ月程度以上と回答したのは、全体の約4割ともっとも高くなりました。年々、長期化の傾向が高まってきているのが特徴です。
新卒採用が早期化および長期化している状況を踏まえると、新卒採用戦略にもとづき採用活動を行い、求める人材に出会う機会をしっかりと確保することが重要であることがうかがえます。
参照元:国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)」
参照元:厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(平成31年3月卒業者)を公表します」
参照元:厚生労働省「学生の就職・採用活動開始時期等に関する調査結果について(概要)」
新卒採用戦略を成功させるためには、ターゲット世代の特徴を把握し、戦略に反映させることが不可欠です。
1996年~2012年の間に生まれたZ世代はSNSとの親和性が高く、TwitterやInstagram、TikTokなどのSNSを使いこなします。
また、YouTubeなどの動画鑑賞やSNSを見ることや、アイドルや俳優、キャラクターなどを応援する推し活に楽しみを見出している割合が多いことも特徴です。推し活女子は、TwitterとInstagramの複数アカウントを使い分け、「オタク専用アカウント」を持っていることが多いとされます。
これらのZ世代の特徴から、新卒採用戦略にはとくにSNSの活用が効果的であることがわかります。
参照元:総務省情報通信政策研究所「令和4年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関 する調査報告書 <概要> 」(令和5年6月)」
採用戦略は策定して終わりではありません。随時見直しを行いながら、次回対策につなげて運用していくことが重要です。ここからは、選考フェーズ別のチェックポイントを解説します。
新卒採用における母集団形成とは、自社の求人に興味や関心を持つ学生を集めることです。具体的には、就活サイトに求人を掲載してエントリーを募ったり会社説明会を実施したりして、学生と接触する機会を設け、応募へと促します。
母集団を形成する段階でのチェックポイントとしては、次の4点が挙げられます。
なお、エントリーした人数をチェックする際は、「一括エントリー」と「個別エントリー」の内訳数まで確認することをおすすめします。一括エントリーは、複数の企業に対してエントリーする方式であり、各企業独自の質問などはありません。一方、個別エントリーは目的の1社に対してエントリーする方式で、企業が設定したいくつかの質問に答える必要があることがほとんどです。一般的には、個別エントリーをした学生のほうか、その企業に対する志望度が高いとされます。
エントリーをせずに説明会を予約するケースも増えているため、説明会への参加数をチェックする指標として追う企業も多いです。
各選考フェーズに進む人数の割合も、自社の新卒採用戦略が適切かどうかを確認するポイントの一つです。業界や採用職種によって変動幅があるものの、会社説明会への参加から最終選考合格までの平均的な移行割合は、約9~12%程度とされます。
移行割合が低すぎると辞退者や不合格者が多く、採用活動が効率的でない状態とされ、逆に移行割合が平均よりも高すぎる場合は、自社の採用基準が低い可能性があります。
ここ数年、新卒の内定辞退率は60%前後を推移しています。内定辞退率が高い場合、以下の3つのポイントにおいて見直しを行うと効果的です。
内定前後の対応が遅い企業は、内定辞退率が高い傾向にあります。必要に応じ、内定を最終選考の場で伝えるのか別日を設定して伝えるのか、また直接口頭で伝えるのか、電話やメールなどで伝えるのかなどを再考しましょう。内定承諾の期限は、他社の選考状況を考慮して設定することがおすすめです。
内定承諾にいたっても、その後のフォローが不十分だと、承諾後の辞退を招きます。そのため、内定後のフォローを、従来の懇親会や内定者研修だけでなく、SNSや専用のアプリを用いて行う企業が増えています。自社が適切な内定者フォローを行なえているかどうかは、次の2つのポイントから判断しましょう。
内定者が使いやすいツールを用いて、常に連絡を取り続けることが可能な体制を整備する必要があります。一方で接触頻度を上げようとイベントや勉強会を頻繁に行うと、参加を義務付けられることに対して抵抗を感じる内定者が出てくる可能性があるため、注意が必要です。
新卒採用戦略策定は、以下のような流れで実施することが一般的です。
順番に解説していきます。
まず、 新卒採用を行う目的を明文化します。事業計画などを踏まえ、なぜ新卒採用を行うのか、また、企業が今後も継続的に発展するためにはどのような人材の採用が必要なのかを社内で整理しましょう。 新卒採用の目的を明文化することで、企業としての新卒採用でのゴールを意識しやすくなります。
次に、新卒の採用市場動向を調査します。 有効求人倍率はもちろん、採用活動の開始時期などの就活ルールや他社の動きを把握したうえで行う必要があるでしょう。
新卒採用戦略を立てる際に、採用市場の動向を読み取ることは、自社の立ち位置を確認する意味でも有効です。どのような戦略を立てれば自社が優位に立てるのかを検討するために、競合企業の求人内容や選考方法を確認しましょう。
新卒採用戦略を立てる際、競合他社との差別化が可能な自社のアピールポイントの調査・分析は必須といえます。まずは、「市場・顧客」「競合」「自社」の3つの切り口から行う3C分析などのマーケティングフレームを用いて、自社のポジションを客観的に把握しましょう。そして、整理した情報を踏まえ、自社の魅力や強みとしてアピールできる内容を洗い出します。
なお、会社の魅力は、主に以下の4つの要素に大別されます。
そもそも何の事業を行っている企業なのかわかりにくいと、学生の関心を集めるのは困難です。企業の顔といえる商品やサービスは、積極的にアピールしていきましょう。また、企業選びをする際、将来性や競合優位性がある企業は学生の目に魅力的にうつります。
そのほか学生からは給与や賞与、手当などの待遇面や、働きやすい職場環境であるかどうか、どのような働き方かも重視されます。どのような人達が働いているのか、どのような雰囲気の組織なのかを知りたいと考える学生も少なくありません。
自社の魅力をアピールする際は、採用ターゲットに響く内容であるかを精査することもポイントです。先輩社員のエピソードを交えて具体的に伝えると、よりイメージしやすくなります。
自社のアピールポイントの分析が終わったら、求める人材の要件定義を行います。人材要件とは、経営理念や事業計画をもとに、ターゲット人材の求める経験やスキルなどを言語化したものです。求める人材の要件定義を行うことで、入社後のミスマッチや優秀な人材を逃してしまうことを防ぎます。
求める人材の要件定義をする際は、経験やスキルだけではなく、価値観や人間性において重視するポイントも洗い出しておきましょう。求める要素を洗い出したら、「必須要件」と「歓迎要件」に分類します。
必須要件と歓迎要件の両方を持ち合わせた人材を求めてしまうと、母集団の人数を一定数確保することが困難になる可能性が高いといえます。そのため、このように人材要件に優先順位をつけることが大切です。
さらに、もっとも採用したい理想の人材を明確にするためにペルソナ設計を行うと、社内での認識にズレが生じにくくなります。ペルソナ設定とは、趣味やライフスタイル、学校での経験などのパーソナリティを加味して、企業として求める特定の人物像を作り上げる手法のことです。
求める人材要件定義を踏まえて、選考フローおよび選考基準を決めていきます。選考フローとは、採用活動における以下のような選考段階の流れのことを指します。
・書類選考
・筆記試験・適性試験
・採用面接
・合否の決定
・内定通知
・入社準備
選考フローを設定する際は、各フェーズおよび選考フロー全体で要する期間はどれぐらいかといった、スケジュール感を考えることが重要です。選考に時間がかかりすぎると必要な人数を確保できず、一方、あまりにも短い期間で設定してしまうと、選考の精度が問われる可能性があります。
また、選考基準の明確化は、新卒採用戦略において必須事項です。求める人材要件の定義を細部まで決めたとしても、選考基準を決めておかないと、面接官によって評価にバラツキが生まれてしまいます。その結果、採用のミスマッチが起きる可能性も高まってしまうでしょう。
決定した選考フローをもとに、採用計画および採用スケジュールを決定します。採用計画を立てる際、たとえば説明会の日程が同業の競合他社と被らないように、事前の調査や調整が必要です。
採用計画の策定後は、なるべく早く採用スケジュールを公表しましょう。早い段階で情報公開を行うことで、学生側も準備する余裕が生まれます。それにより、選考への参加率向上につながる可能性があります。
採用計画の策定と並行して、母集団形成の方法を立てましょう。新卒採用戦略においては、質の高い母集団形成ができるかどうかが、採用を成功させる鍵となります。
母集団形成とは、自社の選考に応募してくれる学生を集めることです。通常、就活サイトへの求人の掲載や説明会の実施などによって行います。
採用における集団は、次のようにさまざまなものがあります。
たとえば、説明会に参加した集団を母集団と捉えるよりも、新卒採用における母集団をプレエントリーした集団と捉えると、人材の取りこぼしを抑えることが可能です。
プレエントリーでも、応募者からは個人情報が提供されるため、企業側から本エントリーに進むようにアプローチができます。
母集団の形成方法を立案する際は、その目標値の設定も必要です。母集団の目標値は、最終的な採用人数から逆算して算出します。
内定承諾を20人する場合には採用通知は30人に出し、そのための最終選考には60人呼ぶというように、スタート時点の母集団は何人必要かを割り出しましょう。
母集団が大きすぎるのも、小さすぎるのもよくありません。母集団が大きすぎると、選考での見極めが困難になり、求める人材と乖離した人材を採用してしまうリスクがあります。
一方、母集団が小さすぎると、最終的に採用の目標人数を確保できない可能性が高まります。
採用に使う媒体を絞り込むことも、新卒採用戦略では重要な工程です。どのような媒体を選べば、効率的にターゲット人材に効果的にアプローチできるかを精査しましょう。
また、前述のとおり、Z世代はSNSとの親和性が非常に高いという特徴があります。そのため、従来の就活サイトや説明会の実施だけでなく、SNSを活用した採用手法の検討も、視野に入れることをおすすめします。
採用後の育成計画も、綿密に立てる必要があります。内定承諾後は辞退者が出ないように、フォローアップ体制を用意しましょう。先輩社員との交流会などを実施することで、入社後の不安な気持ちを軽減できるでしょう。
入社後も、3年目までの離職率が高い時期に、定着率の向上につながりそうな研修やフォローを行うのが効果的といえます。新入社員の離職を防ぐには、企業の理念や価値観などに触れる機会を設けることがポイントです。これらに関する研修を、現場のOJTと並行して行いましょう。
従来の採用手法に加えて、新卒採用戦略に取り入れたいサービスは、以下の4つです。
1つずつみていきましょう。
新卒採用でも、人材紹介サービスから人材の紹介を受けることが可能です。人材紹介会社が、各企業の採用ターゲットに応じて、登録している学生を紹介してくれます。
新卒採用で人材紹介サービスを活用するメリットは、主に以下のとおりです。
事業内容や取り扱っている商品・サービスが、学生にあまり知られていない企業であっても、学生との相性がよいと判断されれば紹介を受けることが可能です。通常、認知度が低い企業は母集団形成が困難である場合があるため、そのような企業にとっては利用してみるメリットが大きいといえます。
また、人材紹介サービスに多くの採用工程を対応してもらえるため、企業の採用担当者はコア業務(選考、内定後フォロー)に工数を割くことが可能となります。
人材紹介サービスを利用するデメリットには、以下のような点が挙げられます。
一般的な紹介料は、学生が文系か理系かで異なるものの、相場は1人あたり50万円~100万円程度と、高額な傾向にあります。また、人材紹介サービスから紹介を受けられるのは、登録している学生のみになる点にも注意が必要です。
人工知能を意味するAIを活用した採用サービスが、AI採用サービスです。たとえば、AI面接サービスでは、AIが約1時間の間に100~180点ほどの質問を行いながら、面談を実施します。人間の目による動画チェックなども加え、最終的な合否は企業の採用担当者が行います。
新卒採用戦略にAI採用サービスを活用するメリットは、以下のとおりです。
従来の採用では、採用担当者が増えるほど選考にバラツキが生じてしまうという課題がありました。しかし、AIによる採用では、すべての応募者を同じ評価基準で評価します。AIでは低評価であった応募者を、あらためて採用担当者がチェックすれば、優秀な人材の取りこぼしも防げます。
また、採用担当者が長期間にわたって行っていた採用業務も、過去の選考データを学習したAIが行えば、効率的に進めることが可能です。
新卒採用をAIを活用して行う場合、以下のような点に注意しましょう。
AI採用を行うには、過去の採用データを大量に用意して学習させなければなりません。また、過去のデータがない企業については、AI採用を実施することは困難です。そのほか、AIに選考をお任せしても最終的な判断は人間が行うため、どこかのタイミングでチェックする必要があり、二度手間になってしまう可能性があります。
新卒採用におけるマッチングサービスには、Web上でOB・OGにコンタクトを取り、OB・OG訪問を行なえるものや、セグメントされたイベントに参加する形態のものなどがあります。
新卒採用におけるマッチングサービスは、OB・OG訪問あるいはイベントを通じて、学生が先輩社員と密なコミュニケーションを図れる点が主なメリットです。一般的な就活サイトや企業説明会に比べて、社員の人となりや具体的な仕事内容を知ることが可能です。
マッチングサービスのデメリットとしては、OB・OG訪問の形態であっても、イベントの形態であっても、採用担当者以外の社員の協力が必要になる点が挙げられます。
新卒採用代行とは、新卒の採用活動におけるさまざまな業務の代行やサポートをしてくれるサービスのことです。アウトソーシングの範囲は各社異なるものの、一般的に母集団形成から選考、内定に至るまでのすべての工程、あるいは一部を代行してもらうことが可能です。
新卒採用戦略に採用代行を取り入れると、以下のようなメリットが得られます。
採用代行サービスを利用すると、ノウハウや知見を持つ代行会社に採用を任せられます。また、多岐にわたる採用業務を代行してもらえるため、採用担当者は人事戦略の立案や合否の判定などの、重要な業務に集中できる点もメリットです。
採用代行のデメリットとして挙げられるのは、以下の3点です。
代行会社と採用代行を依頼する企業との間に認識の齟齬がある場合、自社のアピールを十分に出来なかったり、採用のミスマッチが起きたりする場合があります。代行会社とは細かい点にいたるまで認識合わせをすることが重要です。
また、代行会社を利用することで、自社には採用ノウハウが蓄積されにくい点もデメリットといえます。さらに、応募者や内定者と接触する業務を代行会社に一任すると、自社との関係性の構築が困難になり、入社後の定着率に影響を及ぼす可能性があることも考慮しましょう。
新卒採用は、精度の高い戦略を策定したうえで行うことが得策です。新卒採用戦略の策定により、自社が求める人材の獲得や採用のミスマッチの防止につながります。
また、新卒採用戦略を成功させるためには、ターゲットであるZ世代の特徴を把握し、戦略に反映させることが求められます。今回の記事を参考に、採用市場動向を踏まえた新卒採用戦略の策定や、既存の戦略の見直しを行ってみてはいかがでしょうか。