中途採用を行う際は、給与の決め方を考えなければなりません。前職の給与を参考にしたり実績を参考にしたりなど、いくつかの方法があります。方法を決める際には、決定後にトラブルが起こらないよう対策が必要です。
本記事では中途採用の給与の決め方について、5つのパターンや重要なポイント、決定の流れなどを解説します。
1.中途採用の給与の決め方5パターン
中途採用では、給与の決定に迷うことがあるかと思います。決め方によっては、内定辞退や早期退職の原因になる可能性もあるため注意が必要です。
給与の決め方には、主に5つのパターンがあります。それぞれの内容を解説します。
1-1.前職の給与を参考に決める方法
求職者は前職の給与と比べながら転職先を探していることも多く、給与アップを目的に転職している人もいます。少なくとも、前職の給与と同じ水準は確保したいと考えている人がほとんどと思われます。
そのため、前職より給与が低い場合、内定を辞退される可能性が高いでしょう。前職の給与を参考にしてそれよりも高い給与を決めることで、そのような事態を避けることができます。
前職の給与については、給与明細の提示を求めたりヒアリングを行ったりして参考にします。
1-2.実績や成果をもとに決める方法
過去の実績や成果をもとに決める方法もあります。これまでの実績が認められることで納得を得られやすい方法です。ただし、社会人経験はあっても業界未経験の場合は評価されないことになり、給与が低くなって不満を覚える求職者が出る可能性はあります。
給与の決定に際しては過去の実績・成果を証明する資料を提出してもらう必要がありますが、資料がない場合は証明できず、評価できないという不都合があります。
1-3.自社の相場に沿って決める方法
中途採用の給与について、自社の相場で決定する方法を採用する会社は少なくありません。年功序列型の給与体系を採用する企業に多く、年齢と自社の相場をもとに給与を決定します。年齢を基準とすることで、求職者の納得を得やすい方法です。
ただし過去の業績やスキル、前職の給与などが反映されないと、求職者の納得を得られず、採用決定後に内定辞退や早期退職につながる可能性があります。
1-4.試用期間に見極めて決める方法
採用時に給与額を決めるのが難しい場合などは、試用期間を設け、期間中の働きをみて決める方法もあります。
この方法では、労働条件通知書などの書類に「記載された給与は仮の金額であり、実際は試用期間中の働きに応じて決定する」といった内容の記載が必要です。
試用期間は一般的に3ヵ月〜6ヵ月で、期間終了前に決定した金額を本人に伝えます。
1-5.競合他社と比較して決める方法
競合他社の金額と比較して決定する方法もあります。転職サイトや厚労省の統計などを参考にするほか、求職者が競合他社から提示された金額についてヒアリングし、それを上回る給与を提示します。
複数の競合他社の給与を参考にすることで相場を把握でき、適切な金額を提示しやすい方法です。他社よりも高い給与が提示されれば、求職者は自分の能力が高く評価されたと感じ、入社意欲を高めると考えられます。
2.中途採用の給与を決める際に重要なポイント
中途採用の給与を決める際は、就業規則を確認するなど押さえておきたいポイントがあります。
ここでは、中途採用の給与を決める際の重要ポイントをいくつか紹介します。
2-1.就業規則を確認する
中途採用の給与を決める際は、就業規則の確認が必要です。
企業における業務の遂行は、すべて就業規則に沿って行われます。就業規則とは、労働基準法に基づき労働条件や職場内の規律を定めたものです。使用者と従業員は記載された内容を守り、業務を遂行しなければなりません。
給与に関しては「賃金の計算・支払方法、締め日・支払日・昇給」などが記載されています。給与の決定も、就業規則の内容に沿って行わなければなりません。
2-2.給与の決定方法を明確にする
前述した給与の決め方のうち、どのパターンを採用するか明確にしておきます。求職者にとって、どのような方法で給与を決定しているかは重要な項目です。給与も転職先を決める際に重視するものであり、納得できる給与かどうかで入社の意思も変わります。
選考や内定辞退という事態にならないためにも、給料の決定方法を明確にしておくことが大切です。
2-3.評価や昇給基準を把握する
給与の評価や昇給基準を明確にしておくことも必要です。基準が明確であれば、金額に納得しやすく、既存社員にも不満が生まれないと考えられます。
基準は一般的に人事評価制度として定め、「能力」「業績」「情意」の3つの項目に評価の指標を設定します。能力とは業務の遂行能力や保有するスキルを指し、業績は自社への貢献度のことです。情意は業務に対する姿勢を指します。
これらの項目は、どれに比重をおくかも重要です。重視する項目は部署や業務によって異なります。
評価者や評価方法を公表することも重要です。客観的に評価できる評価者を選定しておくとよいでしょう。
3.中途採用の給与を決める流れ
中途採用の給与は、次のような流れで決定します。
- 求人票の給与額や条件を確認する
- 選考でスキルなどを見極める
- 面接で求職者とすり合わせを行う
- 内定時に書面で給与を記載する
- 必要に応じて交渉を行う
各段階を詳しく解説します。
3-1.求人票の給与額や条件を確認する
まず、求人票の募集要項に記載する給与額や条件を決定します。基本給や月給、年収など、どの記載方法にするかを決めてください。
各種手当を含めた「額面」として記載する際は、基本給も別途記載しておくことをおすすめします。
また、勤務時間・業務内容・休暇などの雇用条件も、あとからトラブルにならないよう明確な記載が必要です。
3-2.選考でスキルなどを見極める
採用する人材を決定するまでには、書類選考や筆記試験、面接などの選考があります。各段階でスキルなどを見極め、給与を決める参考にしなければなりません。
書類選考では求める資格やスキルの有無をチェックし、筆記試験では能力や一般教養を確認します。また、面接では自社の採用条件に合い、即戦力になるかを判断が必要です。
3-3.面接で応募者とすり合わせを行う
前職の給与を判断材料にする場合は、面接時にヒアリングします。書類選考で前職での給与の記載を求めることもできますが、その金額に対して求職者が感じていることや前職での業績、希望条件など、書類ではわかりにくいことは面接での確認が必要です。
前職の給与とともに求職者の希望する給与も具体的な数字で確認します。前職と金額に差がある場合は、その理由を説明してもらうことで、お互いに納得できる給与額をすり合わせることができます。
給与の話をする際は、求職者と企業との間で認識の違いが生まれないよう、自社の給与体系を明確に示すことも大切です。
3-4.内定時に書面で給与を記載する
内定が決まったら、書面で給与額を記載します。内定の通知は内定通知書を交付しますが、そこに給与の金額を記載してもかまいません。
会社には従業員に「労働条件通知書」を渡す義務があり、給与はそちらに記載するのが一般的です。記載内容は、求人票の募集要項や面接での条件提示と相違ないよう注意しなければなりません。
労働条件通知書は、内定通知書と一緒もしくは入社時に手渡します。
3-5.必要に応じて交渉を行う
内定通知書を渡したあとも、企業の提示した給与に納得できない場合、求職者は金額について交渉できます。求職者から交渉希望があった場合、会社は誠実に応じなければなりません。求職者が納得できるまで、しっかり話し合う必要があります。
交渉で話がこじれないためにも、面接時に給与体系について詳しく説明しておくことが必要です。
4.知っておきたい中途採用の給与に関するトラブル
中途採用の給与を決める際、トラブルになるケースもあります。入社後にスキルのミスマッチが起きても減給できなかったり、高い給与に設定して社内から反発が起きたりするような場合です。
ここでは、中途採用の給与に関するいくつかのトラブルを解説します。
4-1.就業後スキルミスマッチが生じたとしても減給できない
経験やスキルを評価して給与額を決定しても、入社後に期待したような活躍がない場合、単にそのような理由では減給ができません。減給できるのは、就業規則に記載されている減給の事由がある場合か、人事評価で降格したようなケースです。
簡単に減給できないことを考え、給与額の決定はよく考え、慎重に行わなければなりません。
4-2.中途採用者の高い給与に対して社内から反発が起こる
人材不足を解消するために競合他社よりも高い給与にすることもありますが、そのために既存社員から反発が起こる可能性があります。
そのため、高い給与を設定することに対し、既存社員が納得できる根拠が必要です。中途採用者のみ高い給与が設定するようなことがあれば、既存社員は会社への不信感を持ち、モチベーションを下げるおそれもあります。
既存社員が不満を持つような給与設定は、社員間の人間関係にも影響を及ぼします。新入社員が職場に馴染めない原因にもなるでしょう。
4-3.認識の違いにより内定辞退される
給与額について求職者との認識が異なると、内定辞退につながることもあるでしょう。求人票記載の給与と実際の給与に違いがあると、内定辞退や早期退職につながる可能性があります。
例えば、次のような場合です。
- 給与額を変更したのに更新せず、古い給与額をそのまま提示していた
- 「月額20万~30万円」など幅のある給与額を記載し、あとから最低額を提示した
状況によっては、求人票に詐称があったとみなされる可能性があるため、十分注意しなければなりません。
5.中途採用の給与トラブルを回避するための対策6つ
中途採用の給与検定でトラブルを起こさないためには、いくつかの対策を立てることが必要です。ここでは、トラブルを回避するための6つの対策を解説します。
5-1.給与の決定基準を明確する
まず、給与の決定基準を明確にしておくことが大切です。中途採用だけに限らず、既存社員のためにも給与の決定基準や評価基準を明確にしなければなりません。基準が明確であれば、なぜそのような金額であるかの説明も容易になります。
決定基準は、全社員に公表しておくことも大切です。既存社員の納得を得られ、新入社員との交流に支障をきたすなどのトラブルを回避することもできます。
5-2.求人票の給与に関する項目は詳細に記載する
求人票の給与・給与条件の項目には、正確で詳細な情報を記載することも大切です。変更がある場合はそのままにせず、こまめに更新しなければなりません。
給与額の変更をしたにもかかわらず求人票の内容を変えないまま求職者を受け付けて選考に進んだ場合、面接で伝える給与の情報が異なることで、求職者は騙されたと感じます。虚偽の情報を記載したと媒体に報告されれば、企業の対外的な信用は失われかねません。
そのようなトラブルにならないためにも、求人票は正確かつ詳細に記載することが大切です。
5-3.選考時に前職の給与額や希望する額を確認する
書類選考時には、前職の給与額と希望給与額について記載を求めておくとトラブルの回避につながります。経験とスキルがある求職者の場合、前職より低い給与では入社意欲をなくすと考えられます。
未経験の業種に挑戦したいという求職者でなければ、前職の給与の額と同等かそれ以上を希望するのが一般的です。
このような希望を書類選考時に確認しておくことで、面接の際に具体的なすり合わせがしやすくなります。お互いの認識を一致させ、納得のできる給与額の決定が可能です。
5-4.内定時には書類に給与を明記する
給与の額は面接で伝えるだけでは入社後のトラブルになりやすいため、内定時に渡す書類に明記しておくことが大切です。
内定が決まったら、まず内定を知らせるための内定通知書を送付します。内定通知書は企業が迎え入れたい人材に対し、正式に内定を知らせる文書です。ただ合否判定を通知するものではなく、法的拘束力があります。内定通知書と一緒に内定承諾書を送付するのが一般的で、内定者が内定承諾書の文面を確認し、署名・捺印をして送り返すことでお互いの合意が成立します。
内定通知書には特に決まったフォーマットがなく、記載するのは応募に対するお礼と採用内定の通知、入社年月日などです。給与の金額は内定通知書に記載するか、もしくは別途通知する「労働条件通知書」に記載します。
給与の記載は、求人票の募集要項や面接で提示した金額と異ならないことをチェックしておいてください。
5-5.オファー面談を行う
オファー面談の実施も、トラブルの防止に効果的です。オファー面談とは、内定後に行う企業と内定者による面談を指します。
オファー面談では、主に労働条件のすり合わせを行うとともに、就業後に担当する業務内容や入社意思を確認します。
労働条件のすり合わせでは、転職後の給与が具体的にいくらなのか、昇給の見込みがどれくらいあるのかを詳しく伝えるとともに、賞与や各種手当についての説明も必要です。
給与だけでなく、評価制度や福利厚生、社内制度などの確認も必要です。オファー面談時に提示される労働条件通知書に記載された給与は入社時点の金額で、入社後どのように評価されるかがわかれば、モチベーションにも影響を与えます。
入社時の給与が想定より低い場合でも、入社後の活躍で給与アップが見込めるのであれば、入社意欲は高まるでしょう。評価制度の仕組みと給与体系を示しておけば、内定者は長期的なキャリアのイメージができます。
反対に、評価制度が明らかでないと、内定者は入社後に何を指標にして働けばよいかわかりません。何を目標にして努力すれば評価されるのかがわからなければ、モチベーション低下や早期離職につながる可能性もあります。
福利厚生や社内制度は、キャリアアップや働きやすさなどにも影響します。オファー面談で詳しく説明しておくことは、入社後のギャップを防ぐために有効です。
支店のある会社では、転勤の有無も説明しておく必要があります。転勤は生活に大きな影響を与えるため、転勤の可能性がある場合は説明しておかなければなりません。
求人票には勤務地の記載があり、転勤の可能性がある場合は、全国勤務と記載するのが一般的です。転勤がある場合は、転勤に伴う制度や転勤の期間などの説明もする必要があります。
5-6.就業規則を適宜変更し、既存社員にも適用する
近年は人材不足に悩む企業が多く、自社に必要な人材を獲得するには、給与などの条件を良くするなどの対策も必要です。しかし、中途採用者と既存社員の差が大きいと不公平感が生まれ、業務に支障が出る可能性があります。既存社員のモチベーションが低下すれば、生産性にも影響してしまいます。
中途採用者の給与を上げるなど条件を良くする場合は、既存社員との不公平感をなくすため、就業規則の給与に関する事項を変更しなければなりません。規則を変更して既存社員にも適用すれば、既存社員も納得します。
就業規則の給与規定を変更する場合には、作成時と同じように労働基準監督署への届出が必要です。 また、就業規則は労働者と会社の間で締結するもので、変更には労働者の過半数を代表する労働組合、労働組合がない場合には労働者の過半数を代表する者の意見書を添えて提出しなければなりません。
変更の際は必ず労働者の意見を聞くこと、労働者が就業規則の内容を知っていることが必要です。
6.給料決定方法を明確にして中途採用を成功させよう
中途採用の給与の決め方には、いくつかのパターンがあります。採用活動にあたっては、どの方法にするかを決めておく必要があります。給与の決定に際しては、就業規則の確認や、評価・昇給基準の明確化も必要です。
中途採用の給与は、入社後にスキルのミスマッチがあっても減給できず、高い給与を設定すると既存社員の反発が起こるなどのトラブルが起こる可能性があります。
トラブルへの対策も考えながら、給与の決め方を明確にして中途採用を成功させましょう。